鳴いた 11月3日記
文化の日に思い出すのは小学校の習字の時間に大きな字で半紙に
「文化」と書いたこと。
手も腕も墨でべたべたに汚して、早く終わらないかと校舎の窓か
ら仰いだ空は青く晴れ渡っていた。
学校の帰り道、天高く馬肥ゆる秋、と友だちと何度も言い合って
はしゃいだ。
「馬肥ゆる」というところが、面白くて。
秋の虫が鳴いている。
さいしょに気がついたのは、たくやさんだ。
「あ」と言ってベランダにむかい窓を静かに開けた。
一週間くらい前までは、バスのバックを明確に誘導するバスガイド
のホイッスル音のように「ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ」と大
きく響いていたけれど、今夜は「ひー、ひりひりひり、ひー」と笛
のなかの玉がようやく回っている弱々しい声だ。
「最期に聞きたかったんだ」とたくやさんは言うけれど明日も鳴くか
もしれないよ。
真夜中ちかく、月が昇ってきた。
オリオン座もくっきり見える季節になった。
天空には雲はない。虫の音もしずまって夜はシンとしている。
遠く水平線のあたりに黒い雲がゆっくり流れてゆく。
by rika_okubo7
| 2015-11-05 16:44