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盛岡で 11月10日記 

盛岡12時07着。

チェックインには時間がある。

よく晴れている。一日ずらしてよかった。

材木町の光原社に向かう。

今月か来月、焼酎のお湯割りをのむお客様があるからそれに合っ

たうつわがほしい。

ぽってりした形の厚口の。持った感触のやわらかく焼酎の温度が

手つたわりにくいの。釉はたっぷりで唇のあたるところがぬるり

と感じられるようなの。

あ、光原社は民芸のお店だからちょっと趣向がちがうかもしれな

い。けれど、とにかくあの店で買物がしたいのだ。

ひさしぶりの光原社。

ちょうど、店の天井まである大きな窓から陽がさし込む時間でう

つわは太陽の光を受けてきらきら光ってる。

思っていたようなのはなかったけれど、益子の石川さんという方

がつくられた白いうつわを三つ、このところアオイ色にどうして

か強く惹き付けられるので、藍色がほどこされたやむちん焼きを

一つ。和紙のはがきを二十枚。荷物は帰りに取りに来るからと預

かってもらう。

ホテルまでの道程にとら猫が三匹。どれもよい面構えだ。にゃあ

と呼びかけるが、そっけない。しゃがんで撫でたりしたいけれど、

首が前にでるほど荷物が重い。

ホテルの窓から見えるのは、晴天の青い空に、濃い灰色とまぶしい

白の濃淡のはっきりしたあきれるほど大きな雲。

岩手の雲は、どこか恐ろしい。この雲の向こうの岩手の山々に、

いまだ神話が生きている気配がある。

雲は恐ろしいけれど、盛岡の人はやさしい。

はずかしがりやの人懐こい笑顔に(たいがいその顔は丸い)語尾

長め濁音多めの言葉。白い肌はやわらかそうで、体には濃い血液

がとくとくと流れ温かそうに見える。

五時をすこし過ぎた頃、気になっていた店に向かう。

おでんがおいしいんだそう。

引き戸を開けようとするとのれんを持った店主がむこうから開き

「ああーびっくりしたー、あれ、もう5時過ぎたんですか?あ、

平井堅?」と満面の笑みだ。

ぽかんとしていると「あ、ちがうんだー」と言ってまたけらけら

と笑う。ここの店主も白い肌の頬に紅がさしている。

駆けつけ一杯は鯉川のうすにごり。

しばらくすると「工藤ちゃーん」と声がかかって二人の女子がや

ってくる。

今夜は県民ホールで平井堅のコンサートがあるらしい。

またすぐに「おばんですー」と声がかかり二人の女がやってくる。

開演前に工藤ちゃんのところでお腹に何かいれてすこし飲んで行

こうという算段らしい。

カウンターは平井堅の話しでひとしきりもりあがる。

今日のお造りのおすすめはすみ烏賊とまんぼうだそう。

まんぼう!!盛岡ではまんぼうをお刺身でよく食べるそうだ。

味は烏賊に似ている。食感は肉厚のもんごう烏賊をすごーくやわ

らかくするとこういうふうになるのではないかな。まんぼうは塩

焼きにしてもおいしいそうだ。

女たちは県民ホールに向かった。

そしてまた平井堅に向かう一人の女がやってきた。

「もう時間だよ」と店主に言われても動じず「だって、そこだよ

県民ホール。五分だもん」と言って生ビールにおでんの玉子をア

テにして飲んでいる。髪の長いきれいな人。

ようやく男の登場。この人もまた常連らしく、店主に「このごろ

先生はきたかい?」と訊いている。なんでもその先生はダイエッ

トをすると断言してから店に来なくなったらしい。その男はたら

鍋を注文した。

引き戸が開いて「いいですがあ」と勢いのよい女が入ってきた。

店主が冗談なかばで「平井堅ですか?」と訊ねると「そうですー」

とはしゃいでいる。

もう始まるよ、と店主が驚いていると「三がいの席だしぃ、ちっち

ぇくしがみえねえしぃ、それにこの前にほかの店で飲んでぎだらぁ、

もうたんのしくてたのしくて。平井堅はもういいのお。わだし主婦

だしい、津軽から出てきてるからあ、こんなことめっだになくでぇ」

と唾はかくじつに飛んでいるだろう勢いのハイテンションだ。

髪の長い女は腰を上げ県民ホールに向かう。引き戸を閉める時津軽

の女に「ぢゃんどきでぐださいね」と声をかけている。

二杯目はよえもん。岩手の酒だ。

おでんはすべて100円。その値段にも驚くけれど、ていねいに仕

込まれてじつにおいしい。

三陸のどんこという魚のお造りを注文する。淡白でやわらかい。

「途中からでも入れるでしょー。だっで、お金払ってるんだもん」

津軽の女は盛り上がっている。圧倒されてまじめな顔で話しを聞い

ている工藤さん、この人は囲炉裏みたいな人なんだろうなあ。

〆はおでんの出汁茶漬け。おいしかった。

お店の名前はハタゴ屋といいます。桜山神社の参道にあります。

隣には芳本酒店というすばらしい酒屋さんがあります。

わたしは呑んだあと店に寄り、一升瓶二本を東京に送りました。



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by rika_okubo7 | 2015-11-15 07:57 | Trackback | Comments(4)
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Commented by tanat6 at 2015-11-15 09:06
焼酎のお湯割りは ぽってりがいいですよね。
冷めにくく、しかも両手で包み込んだ時 程よい温もりが伝わってくるもの…
日本酒は、唇が切れそうな 口がぱっとひらいたお猪口でキュッと飲みほしたいけれど、
そんな粋な飲み方はできないので 小さなぐい呑みか小さなグラスでちびちび…
最近は熱燗を呑む人が少なくなったので、お猪口も見かけることが少なくなったのは淋しいことです。

直接 唇にあたる器は、なかなかお気に入りを見つけるのは難しいですが、これというものに出会えると嬉しいですよね。
Commented by rika_okubo7 at 2015-11-16 10:35
tanat6さま
うちはふだん焼酎をのまないので、たぶんこんな感じならのんでいてうれしく
なるのではないかなあ、と思えるうつわを想像しました。
わたしの周りには熱燗好きがずいぶんと多いです。
と、いうのも、ともだちに、熱燗の先生がいてくれるせいかもしれません。
そうですね、寿司屋なんかではきりっとした日本酒を向こうが透けるくらい薄い磁器
のおちょこで、きゅっとやりたいですね。
熟成感の強い日本酒なら、古黄瀬戸のでっぷりした風合いのぐいのみでなめるように
のみたいところですが、酒器はめだまが飛び出ます。
酒エロスと印刷された磁器のおちょこも気に入っています。

そうですねえ。
じぶんに合った酒器をいつか手にしたいなあと思っています。
Commented by shiki_cappa_m at 2015-11-16 17:49
こんばんは。
鯉川さんは、別嬪さんを燗用に我家は待機中(笑)。
でもうすにごりも美味しそうだなあ。
薄い酒器は唇への触れ具合が柔らかいけれど、焼物のごつっとした酒器も味わいがあって良かったり、その時の気分だったりもするもので、ブレブレな私はどれが合うのかさっぱり分かっていないのです。
平井堅さんのファンの方は自由だなあ(笑)。
聴かなくてもいいのかしら、津軽の女はどうしたのだろう。

施基
Commented by rika_okubo7 at 2015-11-18 11:53
施基さん
こんにちは。お、鯉川さんは届きましたか?うすにごり、おいしかったでーす。
そうねえ。指先の感触もすごく大切だし、そうすると理想は、低温で焼成した焼きが甘い盃が
よいのだけれど、そういうのはいかんせんお高いのですよねえ。
香りが立ちやすいのは、Cちゃんからいただいた、酒造業界(だと思う?)が作った朝顔形
なんだけど、ひとりの夜は(うちではいつも独り酒なので)、
トルソみたいな徳利と、井戸みたいな盃でやりたいものですねー。
ふふふ、たぶん、はたご屋の工藤さんがいい人なんだと思う。
うれしくても、かなしくても、時間がなくても、工藤さんのお店に行きたくなるんじゃないかな。
ね、津軽の女はどうしたんだろうなあ。こんど行く事があったら訊いてみるね。