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夕暮れ  11月6日記 

そろそろ真剣にやらないといけないんだけれど、首にストールを

巻いたりしてごまかしている。

あと数日で立冬。着るものがない。

洋服掛けに並んでいるのは夏の麻、薄手の木綿。

まだ暖かい日もあるからシャツ一枚で外に飛び出すと、世の中の

人は重ね着をしている。毛物のコートを着ている人もいる。

夕方靴の紐をキュッと結び日本橋まで歩く。

たくやさんは麻わたしは綿の服を着て。

佃大橋を渡るとき足がとまる。

陽が落ちた空には夜がはじまり、水平線のあたりには青から夕焼

け色の諧調が広がっている。深い紫色に揺れる川を弧を描くボー

トは上流にむかい、桃色の提灯をさげた屋形船は客を乗せ夕焼け

ののこる東京湾にむかう。

わたしたちがいつも渡っているかちどき橋は、緑と青のライトに

彩られて、はじめて見るもののように目にうつる。

薄闇にいっかしょぼわりと光が浮かんでいる、あたたかい光につ

つまれたちいさな建物は、しずかに十字架をかかげて、あれはセ

イルカだ。

聖路加タワーに目をうつし、Y子ちゃんは来ているんだろうかと、

9階のあかりを探す。

新富町を抜け、銀座一丁目に出る。

ホテル西洋銀座のビルが取り壊されて、更地の向こうに新しく建

ったビルの景色がひろがっている。

明治屋も耐震工事を終えて店のなかは太陽を抱え込んでいるよう

に明るい。


今夜秋の虫は鳴かなかった。



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# by rika_okubo7 | 2015-11-07 09:18 | Trackback | Comments(0)

牡蠣南蛮蕎麦 11月5日記 

きのうのお昼たくやさんがたべていた牡蠣南蛮蕎麦の牡蠣がどうに

もさびしくて、牡蠣はもっとどんとたっぷりあるといいのにと思っ

たので、今日わたしは作ることにした。

すっぽん屋の牡蠣をいのいちに見に行ったけれど、鳥羽産はまだ入

ってない(ここのすっぽん屋は、すっぽんの他に、夏場はしじみ、

冬場は牡蠣を扱っている。精のつくものばかり、黒いものばかりだ)。

もう10時近かったから早足で牡蠣を見て歩く。

まだなんだなあ。おいしそうな風情の牡蠣はもう少し寒くならない

と出てこないのだろうなあ。

それでも、貝屋の牡蠣を一キロ買った。2700円也。

買ってから、いつだったか岩牡蠣がおいしかった店の店先に並んで

いる牡蠣の方がぷっくりとしてよい肌色をしているのをみて、こっ

ちのほうがよかったと(キロ500円高いけれど)、横目で眺めて

すこし悔しい思いをした。けれど冬は長い。

ほかに乾物屋で和歌山産ちりめんじゃこと(300グラム)と鱈の

干したのを2枚求める。

鱈は肉厚のもあったけれど開きだし、天井からつるしておくことも

憚られるので諦める。


牡蠣はまだ味がのってなかったけれど、熱い蕎麦にぷりぷりの特大

牡蠣を5個のせて満足である。

夜は牡蠣の豆豉炒め。二三日は牡蠣の生活がつづく。

今夜も秋の虫は鳴いた。

わりとあたたかい夜だったけれど鳴く時間は短くなってきた。


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# by rika_okubo7 | 2015-11-06 08:46 | Trackback | Comments(0)

あそこ  11月4日記

ウォーキング兼買物に出かける。

かちどき橋のたもとで、腕時計で時間を確かめるたくやさんの

振る舞いを見た時、ほっぺたの横のあたりがぎゅっと痛くなっ

てつばが湧いた。

お昼近いので、どこかで何かを食べようと考えているんじゃな

いかな、と思って。

「つばがわいた」と言ってそのわけを話すと、たくやさんはが

っくりと首をうなだれてくくくと笑っている。続けて「でも今日

はもうお昼の支度をしてきてるから外食はしません」と断言する。

それなのに鳥藤の塩親子丼が頭のほとんどを占拠して、くちのな

かはつばでいっぱいになってくる。

八百屋で原木なめことからとり芋を求める。

「あそこの蕎麦屋に興味があってさ」やっぱりさっき時計を見

たのは昼のことを考えていたらしい。そして「あそこ」はきっ

とあのビルの地下一階だ。

北島商店にブラックペッパーを買いに行きたいけれど、今日も

築地は混雑していてなかなか前に進まない。

「日本語が聞こえないね」ほんと、確かに、中国語、韓国語、

英語、スペイン語、ロシア語。築地はもう完全に観光スポット

だ。

交差点で信号待ちをしていると、辻で柿を売っている露天商の

看板が風でひっくりかえった。

「かき7つ300円」の裏は「なし7つ500円」と書かれて

いた。

この露天商は、安い!と思わせておいて下さいなと近づくと、

目の前に山と積んだ大きな柿を三つか四つ袋に入れて500円

と言う。客が「え?」という顔をして「7つ300円」では?

と訊ねると「あっちのちっちゃいのは7つ300円」と後ろに

隠すように積まれた柿を指差すというあやしげな商売をしてい

る。まったく、と腹立たしくも思うけれど、こういう露天商の

あやしげな商いも昨今なくなってきたなあと天然記念物を見て

いる気持ちにもなる。

東銀座の岩手銀河プラザで、岩泉の牛乳2本、ふのり一袋、原

木干し椎茸一袋、ぜんまい二袋、つがるりんご二個を求める。

「あそこ」の蕎麦屋はやっぱり交差点のビルの地下の店だった。

たくやさん、牡蠣南蛮そば、私、天丼ともりのランチセット。


今夜も秋の虫は鳴いた。

今日はわりと大きな声で鳴いている。暖かいからかな。


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# by rika_okubo7 | 2015-11-06 06:12 | Trackback | Comments(0)

鳴いた  11月3日記


文化の日に思い出すのは小学校の習字の時間に大きな字で半紙に

「文化」と書いたこと。

手も腕も墨でべたべたに汚して、早く終わらないかと校舎の窓か

ら仰いだ空は青く晴れ渡っていた。

学校の帰り道、天高く馬肥ゆる秋、と友だちと何度も言い合って

はしゃいだ。

「馬肥ゆる」というところが、面白くて。


秋の虫が鳴いている。

さいしょに気がついたのは、たくやさんだ。

「あ」と言ってベランダにむかい窓を静かに開けた。

一週間くらい前までは、バスのバックを明確に誘導するバスガイド

のホイッスル音のように「ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ」と大

きく響いていたけれど、今夜は「ひー、ひりひりひり、ひー」と笛

のなかの玉がようやく回っている弱々しい声だ。

「最期に聞きたかったんだ」とたくやさんは言うけれど明日も鳴くか

もしれないよ。


真夜中ちかく、月が昇ってきた。

オリオン座もくっきり見える季節になった。

天空には雲はない。虫の音もしずまって夜はシンとしている。

遠く水平線のあたりに黒い雲がゆっくり流れてゆく。



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# by rika_okubo7 | 2015-11-05 16:44 | Trackback | Comments(0)

秋の虫はもう鳴かない  11月2日記 

今日はぐっと寒くなった。

細く開けた窓からびゅうと冷たい風が吹きこんでくる。


夜、秋の虫はもう鳴かない。

たくやさんはときどきため息をついてがっくりと首を落とす。

逝ってしまったかな?と言うと、おまえはすぐに殺すと言う。

たぶんわたしの方が薄情なんだろう。



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# by rika_okubo7 | 2015-11-05 15:44 | Trackback | Comments(2)

おついたち  11月1日記 

11月になってしまった。

おついたち(どうして一日にだけ「お」をつけるんだろう、お二

日ともお三日とも言わないし、月のはじまりは肝心ということな

んだろうか)には玄関の掃除をきちんと行うことがいつの間にか

きまり事になった。

天井も壁もほこりを払って玄関の床を塩で掃いて水拭きし、盛り

塩をして終わる。

水拭きをすると空気がすっきりして清浄な空間が現れる。

これは打ち水とおなじような効果があるのかもしれない。

気持ちよくてすっとしているので、未来も明るく見えて、深呼吸

をしたり、にこにこしたりする。

このお塩は福徳神社に行ったときにTちゃんが買ってくれたもの。

そろそろなくなるので、今日はおついたちですし、靴の紐をキュ

ッキュとしめて、たくやさんと室町COREDOに向かう。

着いたころにはもうだいぶ日が暮れていた。福徳神社(宝くじの

神様でもあるらしいです。そうそう。この間Tちゃんとここに来た

時、神社の側の宝くじ売り場で、買ってから参拝した方が当たる

のか、参拝してから買った方が当たるのか、迷っているご夫人二

人の前でくじ売りのおじさんは、ぐったりした顔をしていたのが

おもしろかったです)は都市にぽっかりと浮かぶちいさな宇宙空

間のように、風の通りがよい。

ああいった風を神気というのかどうかわからないけれど、風にふ

くまれているものや色がちがうようにみえる。

参拝をしてお塩をいただきにゆくと最後の一つということ。

11月もさいさきよいわい。

さいさきがよいので、COREDOの箔座日本橋でお正月のお飾りも

求める。来年は申年なんですね。

きのうか細い声でひりひり鳴いていた秋の虫は今日は鳴いてない。

逝ってしまったのかもしれない。

わたしたちの住む街にはイルミネーションが輝きはじめた。



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# by rika_okubo7 | 2015-11-05 07:16 | Trackback | Comments(2)

10月

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丸の内のキッテビルの二階の窓を見上げると、ミンクくじらの骨が見
えます。キッテビルは東京駅南口前の中央郵便局がはいっているビル
です。
ビルの壁時計をはじまりにして、視線を二階まで落とし左にすこし目
をやると、窓のむこうにミンクくじらがいます。

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10月は街の音が変わりました。
風が乾いて世の中の音がよく聞こえます。




ベランダのオリーブの木にひとつだけ、オリーブの実がなりました。
オリーブの花粉は2キロくらいは飛ぶそうなんです。
どこの木との子どもなのか。




実を目にすると欲張りになりました。
異種のオリーブの苗を買ってきて育てています。
いつかオリーブの木にたっぷりの実りがありますように。
欲張りついでに、レモンの苗も買いました。
苗といっても背丈は一メートルくらいあります。





わこちゃんからお手紙をいただきました。
熊と月の切り絵付きです。
橋を渡りながら(お手紙を持って出かけました)わたしは吠えました。
わこちゃんの熊に、わたしの心の奥にすんでいる熊が反応したようです。
だから、吠えたくなったのだと思います。




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ひとりの夜にお風呂に三度はいりました。
からだじゅうの緊張がほどけて、ほんとうに気持ちよかった。



たいせつなものをもらいました。
たいせつなので、どんどん使うことにきめました。



10月もかわらず時は過ぎ、かわらず汗をかき、
かわらず息をつめ、けれどかわらず日々はおもしろかった。


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# by rika_okubo7 | 2015-11-05 06:20 | Trackback | Comments(0)