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11月7日記 / つめたいとあたたかいと

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雨。
病室はあたたかい。
白い壁、明るい茶のクローゼット、サーモンピンクのカーテンは気持ちをやわらげる配色だけれど、
ここは病院なんだな。パジャマに着替えると病人になってしまいそうで、身長と体重と血圧をはかり、
名前確認用のブレスレットを手首にされ、採血を終えても、まだ服のままだった。
たくやさんが餓死してしまうという理由を作って近所の蕎麦屋へゆく。
いつもより現実がくっきりと迫ってきて、人の顔もテレビの音も生々しい。
たくやさんは何を食べてたんだっけ、わたしは山かけそば。
病室に戻ると、サイドテーブルにお昼ごはんが置いてあって、病院での時間が始まっていたことを知る。
大学病院の待ち時間は長い。
オリエンテーションを待つ間たくやさんは本を読んでいたけれどそれもつかの間、
ここ数日の疲れがでたのかとろとろと眠り始めた。

オリエンテーションは若い女医さんの担当だった。MRIの画像を前に、丁寧な説明を受ける。
たくやさんは物珍しい物を見る目で(実際、珍しいけれど)わたしの体内を見ながら、
相づちのようなものを打っている。
明日の手術の確認作業を一つずつはっきりさせる度、現実を飲み込む痛みをうっすらと感じる。
「執刀は先生がして下さるのですか?」と訊ねると「いえ、T先生がいますから、安心して下さい」と言ったすぐ後に「若いのが出てきてすみません。T先生から聞いていませんでしたか?」とうつむいた。
医療チームが今日決まるのは知っていたから、そういう意味で訊いたのではないということと、
ただ確認したかったことを説明するのに何故か大きなゼスチャー付きになりしどろもどろになり
「拝顔できて、お話もできて安心しました。知らないってどきどきするので」とヘンな日本語で
無理に締めるように言うと「わたしも、患者さんに会うまでどきどきするので安心しました」と受けてくれた。
正直で好きだな、と思った。
若い(たぶん20代後半)っていうだけで嫌な思いをすることも多いんだろうなあ。

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夕方たくやさんが帰ってやっと、パジャマに着替える気になる。
たくやさんと入れ違いに、Tちゃんが来てくれた。
術後の痛みについてはこれまでも聞いて来たけれど、覚悟を決めろというようにとくとくと語るTちゃん。
「9月にお腹が痛くなった時、死んじゃうくらいだったけど、もっとかな」と訊くと
「あったりまえでしょー、切腹だよ!」と言う。
まあ、腹は切りますけどね、ハラキリちゃうよと笑う。Tちゃん独特の優しさだ。

夜の処置室の冷たさを忘れられない。
緊張しているのか体が閉じて痛い事ばかりだったけれど、固い空気のなかにK先生とT先生の
体温が白衣に包まっていて、唇からは言葉が流れてくる。
言葉の端はし語尾抑揚、こまかなニュアンスが、二人の輪郭をはっきりさせる。
この先生たちでよかったと思った。

明日は手術。
眠れない夜に、廊下ばかりを見ていた。

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by rika_okubo7 | 2013-11-17 02:48