スウプのある風景 4月27日記
スウプを煮詰める。
静かに煮たっているところを、木べらでかき混ぜると閉じ込めら
れていた熱気が一斉に湯気になり上がってくる。それに従うよう
にわたしもかすかに昂揚する。おもしろい。熱がたまるのを待っ
て何度も木べらでスウプをかき混ぜる。おかげでキャベツは必要
以上にくたくたになってしまった。
台所に立っている間中、浮かんでくるのは古い記憶だった。
真っ暗な道を駅に向かう途中道で固まって鳴いている仔猫たちを
踏んでしまった感触、踏まれた仔猫たちの苦しげな声、黒板に字
を書く田中先生の馬の尻尾のように一つに束ねられた長い髪が腰
元で揺れていたこと、怒ると歯ぎしりして話す口元には金歯が広
がったこと、夏休み田中先生のお宅にお邪魔したとき思い
がけず女性らしいやさしさや笑顔を見た事(小学校3、4年生の
ときの担任)、ディズニーのピンクのスケルトンの目覚まし時計
の歯車に夢中になっていたこと(何でも分解するのが好きだった)
、どこかのギャラリーで満月の夜の荒れた海の絵に捉えられたよ
うに見上げていたこと(美術館やギャラリーは母が連れていって
くれた)。
きのうわたしのセンス・オブ・ワンダーを求めて記憶の探索をし
たせいだと思うけれど、これらが全部そうだと記憶を司っている
人は言いたいんだろうか。わたしを支えていることもあるけれど、
むしろ形作っているものたちが浮かんでくるようにも思うけれど。
by rika_okubo7
| 2015-05-24 04:53