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真夜中の停電   5月15日記 

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八重桜に芝桜、山の家は春の名残のさなかだった。

今年は大雪で、それも一晩のうちにどっさり積もる”どか雪”が

何度もあったそう。

八重桜や椿の枝が折れ幹からぶらさがっている姿が(それでも

折れた枝にもたっぷりと花をつけて)雪が多かったことを物語

っている。

サンルームの屋根にはぽっかりと穴があいている。これは、雪

解けのとき屋根から落ちた雪のかたまりのせいだろうなあ。


夕方から雨が降ってきて、そのうちに雷。

雷がそこいらに落ちたようで”どどん”という音とともに家が揺

れた。


暗闇でわたしの名前を呼んでいるのは母だ。くりかえし、くり

かえし、低い声で、ゆっくりとわたしの名前を呼ぶ。その声が

怖くて最初は無視していたけれど、あまりにもしつこくて根負

けをして返事をすると「真っ暗」という。確かに豆電球もちい

さくかけていたラジオの声も消えている。目を開けても目をつ

ぶっても深い闇だ。布団から起き出して、蝋燭を探す。

指先の感覚が頼りだ。つるつるして角の丸い板の感触は、黒い

漆の棚。ここいらに蝋燭が立っていたはず。手はしばらく宙を

さまよう。硬くて細長いものに指先がさわる。蝋燭だ。つぎに

火を探す。マッチは確かストーブの前のテーブルの上。とは思

うものの闇のなかでは方向感覚を失い真っすぐには進めずくる

くる回される。

ようやく四角い小さな箱を指先が見つけて、マッチを擦り、蝋

燭が灯り辺りが明るくなったとき胸の真ん中がゆるんだ。

カーテンを開けて外を見ると道ばたのただ一つの街灯も消えて

いる。ブレーカーは落ちていない。思いあまって、119番に

電話をする。さいしょ担当が違う言われたけれど、土地の者で

はないからどこに電話をしたらいいのかわからないと愬えると、

親切に電力会社に電話をしてくれて、便宜をはかってくれた。

やはり原因は落雷らしい。それにしても街灯も消えているとい

うのに、うち一軒だけの停電とはどういうわけだろう。電力会

社の職員がくるまで一時間ほどかかるらしいから、ふかい夜に

一本の蝋燭を立て母と話し合う。昔はこうして光を中心に人が

集まっていたのだなあ、とふと思う。


5月15日の皿



by rika_okubo7 | 2015-06-05 07:06